の結果の覆奏《カヘリマヲシ》をなされる。其目的が次第に固定して来て、田のなり物の為にせられると云つた形になる。此覆奏が、即、まつる[#「まつる」に傍線]と云ふ語の最古の意義である。みこと[#「みこと」に傍線]に叶つた結果を御示しする事だ。唯、此まつり[#「まつり」に傍線]は、天神と関係を持つてゐる行事で、極めて古い伝来を尊重した結果、其行動と伝承の言語とを別に考へる様になつた。普通献上物をするからの祭りとは別な内容を持つと考へ、区別する為に政《マツリゴト》と称してゐる。覆奏詞《マツリゴト》をまをす儀だから、まつりごと[#「まつりごと」に傍線]と言ひ慣したわけだ。すべて、古い信仰上の語で言へば、食国政《ヲスクニノマツリゴト》の一つに帰する。だから、われ/\の国では、まつり[#「まつり」に傍線]・まつりごと[#「まつりごと」に傍線]と云ふ語は、根本に於いて経済的な意識を離れてはない。
日の御子が代り替りに此土に下られるのも、実は、食国政を行はれる為に過ぎないのであつた。尚《なほ》、日の御子の御職分としては、色々の聖なる行事のあつたことは考へられるが、其すべてをこめて、食国政と云ふ立場から解決してゐたのは、事実だ。此政をせられるのだから、主上、即、天つ神のみこともち[#「みこともち」に傍線]でいらつしやる。主上御自身が宣布せられる食国政に関する詞章は、恐らく極めて数の少いものだつたのが、次第に数を増し、段々対象が精霊・魂から人間に移つて行つた為に、主上の使はれる伝宣者には、宮廷に仕へてゐる神人を用ゐられる様になつた。即、みこともち[#「みこともち」に傍線]の逓下する原因が、こゝに出来たわけだ。其で、後世に於いても尚さうであつた様に、尠くとも、其詞を発してゐる間は、最初の発言者と同格の、尊い伝達者と同じ資格を持つてゐる事になるのだ。だから、詞章によつて、其人の社会的の地位も高まつたのだ。中臣の神主も、主上の伝宣を常にした為に、次第に其位置を高めて来た訣だ。宮廷における神主は、主上御躬らでなくてはならないのに、これを神主と称する様になつた。斎部の場合も、大体おなじ過程が考へられる。其外、中臣・斎部以外にも、天つ神並びに天子のみこと[#「みこと」に傍線]を持つ[#「持つ」に傍点]家々のあつた事は考へられる。即、其家の伝来の職業に関する呪詞で、天子から仰せられなければならぬものを、其団長或は族長から言ふ様になるのだ。其が同時に、それらの所謂|伴《トモ》[#(ノ)]造《ミヤツコ》が、沢山の部民を率ゐる原因になるのだ。其も亦かうした古代から家々に伝承せられた詞によつて生ずるところの力であつたのだ。其一番新しい変化したものを考へて見れば、奈良朝に近づくと、元来呪詞を用ゐる所を、其呪詞の中の要部たる歌を以て代へる風が盛んになつて来た。
かう言ふ古代生活の組織を最後まで持ちこたへてゐたのは、ものゝふ[#「ものゝふ」に傍線]の階級である。而も、われ/\に考へられる、さうした様式の最後の生活者たる大伴家持の作つた物には、宮廷の御趣意を族人或は部下に伝へる積りで作つた長歌がある。その一例は次章に挙げる。繰り返して言ふと、天子がみこともち[#「みこともち」に傍線]でいらせられる事の外に、宮廷の職員として、中臣・斎部が後世まで其俤を残したことは、既に述べたが、その外に更に、部曲々々に就いて、さうした意味のみこともち[#「みこともち」に傍線]たる宰領を奉じてゐたと言ふことが出来る。顕に見えてゐる事実を挙げると、安曇[#(ノ)]連の祖大浜[#(ノ)]宿禰が、諸地方の海部《アマ》の※[#「言+山」、第3水準1−91−94]※[#「口+尨」、23−9](さはめき?)を平げた本縁によつて、海部を管理する家筋となつた。其で、海部の宰と称へたといふ。
かうして、第一次の発言者を主上とするみこともち[#「みこともち」に傍線]の用語例が、様々に岐れて来る。つまり、其伝来のみこと[#「みこと」に傍線]に依つて、其家の社会的地位は動かないのだ。処が、此呪詞が世を逐うて次第に変化し、独立すると同時に、みこともち[#「みこともち」に傍線]の呪詞としての意義は忘れて、其家独自に発生したものだ、と考へる様になる。其が更に、叙事詩化して、其種族の歴史・職業団体の歴史と云ふ風になつて来る。其一例として次の章を書いて見度い。
四 ものゝふの呪術
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夏四月甲午朔。天皇幸[#二]東大寺[#一]。御[#二]盧舎那仏像前殿[#一]、北面対[#レ]像。皇后太子並侍焉。群臣百寮及士庶分[#レ]頭行−[#二]列殿後[#一]。※[#「來+力」、第4水準2−3−41]遣[#二]左大臣橘宿禰諸兄[#一]白[#レ]仏。三宝《サンバウ》[#(乃)]奴[#(止)]仕奉[#(流)]天皇[
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