ないから別に仏壇から離しておくのです。これは島台の上に銀月や人形を飾るのと同じことです。盆棚には、茄子・胡瓜の類でこさへた馬がおいてあるでせう。その他、おまつりの時の幟・旗がさうです。あの場合、その先に木の葉(杉の葉・榊の葉)がついてゐます。ついてゐない場合もありますが、そんな風に変化したのです。これがついてゐるのは、神の目じるし[#「目じるし」に傍点]として葉がついてゐる訣なのです。これを目処に四月の釈迦誕生会(やうかび――八日日)には、つゝじ[#「つゝじ」に傍点]の花をつけます。神が招かれてやつて来られるとみてゐるのです。神を誘ふ為で、譬へば雷除けの避雷針と同じ事になるので、譬喩としてはをかしい話ですが、精神は同じでせう。日本人は植物の枝・花・葉によつて神を迎へ、宴会の庭から座敷へ誘つたのです。そのずつと古い例を一つ引いてみようと思ひます。今の天子が即位なされた時に、大甞祭が行はれました。これは年々の新甞祭と同じ事で、その御代の一番初めの新甞祭の事を大甞祭といひます。この時に種々厳粛な儀式が行はれましたが、その一つにかういふ事が昔はありました。「標《ヘウ》の山《ヤマ》」といふものな
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