しておいたことがありました。つまり、島台の上にまう一つ月を飾るので、此処があなたをお迎へしてゐるところです、といふ訣です。昔は非常に素朴なものでした。江戸に吉原、京都に島原、大阪に新町といふ風に、大きな遊廓でも、時々のお祭りを農村風に行つたものです。八月の十五夜になると月見を行つてゐます。遊廓の月見は派手なもので、島台の上に芒と銀月を出した有様の絵が残つてゐます。又さう言ふ風な小唄もあります。
遊廓ですらもさうした古風な生活を残してゐたのですから、まして、田舎では古風な生活を沢山残してゐる訣です。そして、その生活を守り続けてゐるうちに、頑固に固定して、どう言ふ訣でするのかわからないものが出て来ます。その為やめてしまふといふこともある訣です。日本人がどんなものをよいとするか、善悪の標準の目処がたつて来、又美しいものゝ目処が出来たので日本人の好む美しさの標準が、芸術的な美とは別に段々と樹立して来たのです。つまり、芸術家でない人が選択し、段々拵へ上げて来た訣なのです。今まで疑ひもなく過して来た。それが、戦争によつて大きな標準が何処かへ行つてしまつた。一番悲しい事は、今迄皆相談して善い悪いを判
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