それで満ち/\たごく簡素な世界を形作つてゐる、そこにさび[#「さび」に傍点]があるのです。私はさび[#「さび」に傍点]をさうした極平凡な考へ方で考へてゐます。そしてさび[#「さび」に傍点]は今後我々の心の一つの刺戟なのですが、併し、常にさび[#「さび」に傍点]た花ばかり考へてゐてはいけません。わびすけ[#「わびすけ」に傍点]の椿が、あのさゝやかな莟の中に何物もなく、ひそやかにふくれてゐる――あゝ言ふ小世界――それに近いものなのです。が、ともかく、さび[#「さび」に傍点]を感じるのは、日本人が極僅かの材料で、自分だけの世界を作る事の出来る習慣があるからだと思ふのです。それを他の人に見せて、他の人にもその小さな世界のよさを感じる様に導くといふ道があるのです。かう言ふ行き方は、生活の全面ではないが、多少でも人を教へようとしてゐる人の、時には持つことが出来なければならぬ心境だと思ひます。
花は恐らく、今後はさうした考へによつて進んで行くべきものではないかと思ふのです。さうすれば、花の道の未来も、明るいと思ふのです。若しその点、既に解決がついてゐましたならば、私の話は疎い話として笑つて貰つてよい
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