ない。秦氏が帰化人であるごとく、話の根本も舶来種である。われ/\の祖先の頭には、支那も朝鮮も、口でこそもろこし[#「もろこし」に傍線]と言ひ、韓《カラ》(から国[#「から国」に傍線]は古くは、朝鮮に限つてゐた)というて区別はしてゐるけれど、海の彼方の国といふ点で、ごつちや[#「ごつちや」に傍点]にしてゐた跡はたくさんに見える。支那から来たものとせられてゐる秦氏に、此河勝の出生譚があるところから見ると、秦氏の故郷の考へに、一つの問題が起る。
一体、朝鮮の神話の上の帝王の出生を説くものには、卵から出たものとする話が多い。其中には、河勝同然水に漂流した卵から生れたとするものもある。竹の節《ヨ》の中にゐた赫耶《カグヤ》姫と、朝鮮の卵から出た王達《キンタチ》とを並べて、河勝にひき較べてみると、却つて、外国の卵の話の方に近づいてゐる。此は恐らく、秦氏が伝へた混血種《アヒノコダネ》の伝説であらうが、同じく桃太郎も、赫耶姫よりは河勝に似、或点却つて卵の王に似てゐる。
思ふに、桃太郎の話には、尚、菓物から生れた多くの類話があるに違ひない。奥州に行はれてゐる、瓜から生れた瓜子姫子などゝ、出生の手続きは似て
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