らず、他の木の実でも、又は植物の花にすら、生殖器類似のものがあれば、それを以て魔除けに利用する例はたくさんある。あの五月の端午の菖蒲のごときも、あやめ[#「あやめ」に傍線]・しやが[#「しやが」に傍線]・かきつばた[#「かきつばた」に傍線]など一類の花を、女精のしむぼる[#「しむぼる」に傍線]としてゐるのから見ても知れよう。
なほ一个条を加へるならば、初めに言うた、桃の実りの速かなことも、此民俗を生み出す原因になつたであらう。
桃といふ語は、類例から推して来ると「もも」の二番目の「も」字は、実の意味である。木の実の名称にま[#「ま」に傍線]行の音が多く附いてゐるのは、此わけである。単に、日本の言葉ばかりから、桃の民俗を説明するならば、桃と股、桃と百などいふ類音から説明はつくであらうが、同様の民俗をもつてゐるたくさんの民族があるとすれば、同じ言語の上の事実がなければ、完全な説明とはならぬのである。我が国の桃には、実りの多い処から出たといふ「百」からする説明もあるが、此はやはり、多産力の方面から見れば、此民俗の起原の説明にはなるだらう。
人間以外に偉力あるもの、其が人間に働きかける力が善で
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