所とした。理想の「美」を絵画に据ゑてゐた。が、其も墨書きや彩《ダ》み画《ヱ》の絵巻若しくは、屏風の構図であつた。自然は、平凡な絵模様に描き直された。彼等の空想に浮ぶ自然は類型に過ぎなかつた。併しさうした「美」以外に、問題となる自然はなかつた。黒人以来の自然描写の態度は、彼等の心には影もさゝなかつた。彼等は調子の上に、自負を持つて居たらしい。朗らかで軽くひきしまつた、滑らかでさつぱりした長閑さが、彼等の新しい歌の生命を扼《やく》する音律であつた。
四時の交替と自然の変化の関係に興味を持ち過ぎた傾向は、万葉集の巻八・巻十にも既に見えてゐるが、情熱がよく解決した。古今集以後、暦日と自然現象の矛盾に興味を持ち過ぎて、幼稚な構想を、明るい調子に託して歌ひあげたものが多くなる。抒情の歌で見ても、選者等の目ざす処は、淡泊な感情を、例の調子で拘泥なく歌ふことであつた。生活から游離した心境を娯しむことが、彼等の生活の上の「美」であつた。貫之の歌は、其理想通りの形をとつた。かうした態度からよい作物の現れよう筈がない。貫之の歌は、名のみ高くて、実の其に添はぬ物であつた。
忠岑だけは、其仲間に列つてゐて、大し
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