ふし」に傍線]は、男を原則とする様になつた。女性の踊りは其伝襲に重きを置く物にのみ残つた。又男舞ひを模倣する意義に於て、遊女の間にも行はれた。
おもろ[#「おもろ」に傍線]は後代程、まづ国王の果報を、次に村邑の幸福を祈る様になつてゐる。其表現法は、此あそび[#「あそび」に傍線]の首里宮廷に対する誓約を兼ねて、奏せられたものなる事を示す。此が短章となつて、恋愛味を離れて来ると、やはり国王の為の賀寿に傾くのである。さうでなくとも、恋愛詞章なら、恋愛詞章なりに、其効果は、国王を祝福すると考へる信仰があつた。国邑の古い神事歌以来のものだからである。かう言ふ祝賀の趣きに専らになつてゐるふし[#「ふし」に傍線]踊りに、大きな影響を与へたものは、千秋万歳を祝する芸能の渡来である。日本《ヤマト》の為政者や、記録家の知らぬ間に、幾度か、七島の海中《トナカ》の波を凌いで来た、下級宗教家の業蹟が、茲に見えるのである。
念仏宗の地盤の、既に出来てゐた上に、袋中《タイチユウ》の渡海があつたものと見てよい。浄土宗の布教は、実に行き届いてゐた。地理的に階級的に、忘れられた未信者のありかを、追求して止まなかつた。此宗
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