演劇があつたのだ、とくり返し感じた。かうした型の記録が、現在の組踊り全部に亘つて、もつと細密に行はれねばならぬはずだと思ふ。此が無為に苦しむ島の有識にとつて、一つの生きがひになるかも知れない。
伊波さんの此本は、かうした組踊りの衰運を輓《ひ》き戻さう、といふ情熱から書かれたものである。だが、朝薫のやまと[#「やまと」に傍線]・うちな[#「うちな」に傍線]の古典詞章の幻を、現実の芸能の上に活して見ようとして、それの成功した、琉球劇の花の時代を、今一度、つく/″\と顧みて、なごり惜しみをする事になりさうな気がする。寂しいけれども、為方がない。



底本:「折口信夫全集 3」中央公論社
   1995(平成7)年4月10日初版発行
底本の親本:「『古代研究』第一部 民俗学篇第二」大岡山書店
   1930(昭和5)年6月20日
初出:「民俗芸術 第二巻第八号」
   1929(昭和4)年8月
※底本の題名の下に書かれている「昭和四年八月「民俗芸術」第二巻第八号、昭和四年十月、伊波普猷『校註琉球戯曲集』序」はファイル末の「初出」欄、注記欄に移しました。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
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