ことである。さうして、第一に現れたその結果は、小唄踊りである。はじめ、同形異詞の宗教唄を、続けて謡うたのである。其が次第に、多少形式に変化のある詞章をもまじへた唄を組んで、謡ひ返す様になり、小唄踊りの文句は、組唄としての自由さを持つて来た。
小唄踊りは、はじめは信仰的なものゝ多かつたのが、其を段々芸能家がとりこんで、ふりごと[#「ふりごと」に傍線]・物まね[#「物まね」に傍線]・あてぶり[#「あてぶり」に傍線]の踊りを演ずる様になつた。念仏踊りの流だ、といはれる出雲のお国が、芸能史上、大きな領分を劃したのは、此小唄踊りを、念仏踊りの新しい芸として、挿んだ為である。その上、当時男性的な、華美風流生活の代表者と見られた、かぶき[#「かぶき」に傍線]者の物まねを加へた新趣向が、世間の心に叶ひ、模倣者を多く出して、女歌舞妓が、根を固める事になつたのである。だが、かぶきをどり[#「かぶきをどり」に傍線]も畢竟、小唄踊りに連鎖的脚色を加へたものである。歌舞妓草子として伝へられた数種の絵巻も、皆小唄踊りを写してゐる。だから、七月盆の時期に、都邑の少女たちが行うた、団体的謹慎《モノイミ》の間の行事たる
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