稲の魂は、神の考へが生ずる、一時代前の考へ方である。外来魂の考へである。此魂を身につけると、健康になり、農業に関する、すべての権力を得ることにもなる。大嘗祭の中へ、稲穂を入れる時には、警蹕の声をかける。警蹕は、神又は天子様の時でないと、かけない。そして、警蹕のかけ方で、何処の国、何処の誰といふ事が訣つた位である。
警蹕の意味は「尊い神が来た。悪い者よ。そこをどけ」といふ事である。此で見ても、稲穂が大切な尊いものであつた事が知れる。此稲魂の事をば、うかのみたま[#「うかのみたま」に傍線]といふ。うか[#「うか」に傍線]はうけ[#「うけ」に傍線]で、召食《メシアガリ》ものといふ事で、酒の方に近い語である。
悠紀・主基の二个国は、何時頃から定められたか訣らぬが、近代は、亀卜で定められる。昔は、何かの方法があつたのであらう。延喜式で見ても、御幣について上る国を以て、其とする様だ。これを国郡卜定と言うて居る。だが、悠紀・主基の国といふのは、大抵、朝廷の近くの国である。そして、東は悠紀・西は主基とされる。御殿もやはり、此様にこしらへる。つまり、大倭朝廷を中心として、其進路の前後を示したのであらう。
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