。併し、ぢつと目を据ゑて見廻すと、一向世間は変つて居ない。氏子の気ぐみだつて、旧態を更めたとは見えぬ。いや其どころか、ある点では却つて、悪くなつて来た。世の末々まで見とほして、国家百年の計を立てる人々には、其が案ぜられてならなくなつた。閑却せられて居た神人の力を、借りなければならぬ世になつたと言ふ事に気のついたのは、せめてもの事である。だが、そこに人為のまだこなれきらぬ痕がある。自然にせり上つて来たものでないだけ、どうしても無理が目に立つ。我々は、かうした世間から据ゑられた不自然な膳部に、のんき[#「のんき」に傍線]らしく向ふ事が出来ようか。何時、だしぬけに気まぐれなお膳を撒かれても、うろたへぬだけの用意がいる。其用意を持つて、此潮流に乗つて、年頃の枉屈を伸べるのが、当を得たものではあるまいか。当を得た策に、更に当を得た結果を収めようには、懐手を出して、書物の頁を繰らねばならぬ。
「神社が一郷生活の中心となる」のは、理想である。だが、中心になり方に問題がある。社殿・社務所・境内を、利用出来るだけ、町村の公共事業に開放する事、放課・休日に於ける小学校の運動場の如くするだけなら、存外つまら
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