「天王寺の名高いよろばうし[#「よろばうし」に傍線]の舞を見た事がないのか。話せない」など、言ふ事であらう。「ぼし」は疑ひなく拍子《バウシ》である。白拍子の、拍子と一つである。舞を伴ふ謡ひ物の名であつたに違ひない。此も亦白拍子に伝統のあつた天王寺に「よろ拍子」の一曲として伝つた一つの語り物で、天王寺の霊験譚であつたのが、いつの程にか、主人公の名となり、而もよろ/\として弱げに見える法師と言ふ風にも、直観せられる様になつたのである。
柳田先生は、おなじ五説経の「山椒太夫《サンセウダイフ》」を算所《サンシヨ》と言ふ特殊部落の芸人の語り出したもの、としてゐられる。
かう言ふ事の行はれるのは、書き物の台本によらず、口の上に久しく謡ひ伝へられて来た事を示してゐるのである。
はじめて語り出し、其を謡ふ事を常習としてゐた人々の仲間の名称は、其語り物の仮りの表題から更に、作中に入りこんで人物の名となり易いのである。
「帰らうやれ、元の古巣へ」と言ふのは、葛の葉物には、つき物の小唄の文句である。こんなところにも「妣が国」の俤は残つて居た。
信太妻と言ふ表題も、実は、いつからはじまつたものとも知れぬ。本文
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