ふ浄瑠璃を拵へて居る。此方は、さう大した影響はなかつた様である。
信太妻伝説は「大内鑑」が出ると共に、ぴつたり固定して、それ以後語られる話は、伝説の戯曲化せられた大内鑑を基礎にしてゐるのである。其以外に、違つた形で伝へられてゐた信太妻伝説の古い形は、皆一つの異伝に繰り込まれることになる。言ふまでもなく、伝説の流動性の豊かなことは、少しもぢつとして居らず、時を経てだん/″\伸びて行く。しかも何処か似よりの話は、其似た点からとり込まれる。併合は自由自在にして行くが、自分たちの興味に関係のないものは、何時かふり落してしまふといつた風にして、多趣多様に変化して行く。
さう言ふ風に流動して行つた伝説が、ある時にある脚色を取り入れて、戯曲なり小説なりが纏まると、其が其伝説の定本と考へられることになる。また、世間の人の其伝説に関する知識も限界をつけられたことになる。其作物が世に行はれゝば行はれるだけ、其勢力が伝説を規定することになつて来る。長い日本の小説史を顧ると、伝説を固定させた創作が、だん/″\くづされて伝説化していつた事実は、ざらにあることだ。
大内鑑の今一つ前の創作物にあたつて見ると、角太夫
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