落して居る。土焼きのおもちやを子供に持つて来て、置いて行つたなどは、近代的とでも言はうか。なまじつかな歌を残すよりも、憐が身に沁むではないか。此三つの話は、土地の近い関係から、大体同じ筋に辿られる。
こゝまで話が進むと、最初そんな愚かな事が、と言ふ様な顔をしてゐられたあなた方の顔に、ある虔《ツヽマ》しさが見え出した。或はさうした事実があつたかも知れない、とお考へ始めになつたものと推量しても、異存はなさゝうである。「狐おぢい」始め、女化原の二様の伝説では、別に其子が賢かつたとも言うて居ないが、狐腹の子は、概して雋敏な様だ。併し、狐の子だから、母方の猾智を受けるものと見る訣にはゆかない伝説が、まだ後に控へて居るのである。
田舎暮しには、智慧を問題にはしない。凡人の生活の積み重りなる田舎の家の伝説には、英雄・俊才の現れる必要は、一つもない。とにかく其家には、祖先以来、軒並みの人間以外の血のまじつて居る事さへ説明出来れば、十分だつたのに違ひない。村人の生活はどんな事をも、平凡化する方が、考へぐあひがよかつたものらしく、この話なども今少し古くには、しかつめらしい形で伝へられて居たものと見られる。
前へ
次へ
全57ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング