あつた。大小二十に余るお面を、棚に並べておいて、其を上手《ワデ》と称する当役その他の人々が、てんでに新しく、胡粉や、丹で彩色する事であつた。村の人は、此について、合理的な何の説明もせなかつたけれど、かうする事が、年々新しく、お面を作るのとおなじ効果のあるもの、と言ふ信仰を印象してゐる事が考へられた。だがもつと、古く或は、日本的といふことを超越して思ふと、死者のますく[#「ますく」に傍点]に、毎年新しい生命を与へる為の技術のなごりが、仄かに残つてゐる様な気がして、蝋燭の瞬きが、何とも言へない古代の古代を、空想させた事であつた。
彩色せぬ面もある。其は三つの鬼の面である。十年ほど前の夏、私が此村を訪うて、種紙屋と間違へられた事があつた。其後、この伊豆権現が焼亡した相である。其頃|天井《アマ》にあげてあつたお面祭器類も、持ち出す事が出来ないで了うた。其後お祭りの為に、お面を神事役の年よりが、皆より集つて彫刻したのである。鬼などは、精巧過ぎる程に出来てゐる。此が素人の手になつたとは思へぬ程である。でも、どの面と、どの面とは、誰の作と言ふ事が訣つてゐる。而も、当事者以外には、わかつても知らぬ顔で
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