葉について、赤い筋が出来たのだ。又、田や畠に、雑草の種を蒔いて歩いた。新城《シンジヤウ》で種袋の口が逆さになつて、皆、こぼれて了うた。其為、新城の畠は、雑草が多くて作りにくいのである。
神様――竹田[#(ノ)]番匠と言ふ――が、壱岐の島を段々、造つて行つて、竟に、けいまぎ崎の処から対岸の黒崎かけて地続きにしようとして、藁人形を三千体こしらへ、此に呪《オコナ》ひをかけ、はたらく様にして、一夜の中に造り上げようとした。あまんしやぐめ[#「あまんしやぐめ」に傍線]が、其邪魔をしようと、一番鶏の鳴きまねをした。たけたの番匠[#「たけたの番匠」に傍線]が「けいまぎ(掻い曲げ)うっちょけ(棄《ウチ》置け)」と叫んだ。其で、とう/″\為事は出来上らなかつた。其橋の出来損ねが入り海に残つた。けいまげ崎[#「けいまげ崎」に傍線]である。
此話は、到る処に類型の分布してゐるもので、鬼や天狗などが、今一息の処で鶏が鳴いた為、山・谷・殿堂を作り終へなかつた、と言ふ妖怪譚に近いものとして、残つてゐる。壱岐のには、神――土木工事だから名高い番匠にしたのだ――と精霊との対照が明瞭である。国作りの形も海岸だけに、はつきりしてゐる。竹田[#(ノ)]番匠は北九州では、左甚五郎に代る程の伝説の名工なので、壱岐の島中にも、此人の作だと言ふ塔婆・建築がある。島では、たつたのばんじよう[#「たつたのばんじよう」に傍線]だの、古くはたくたのばんしよう[#「たくたのばんしよう」に傍線]などゝ言ふ。
話し手によつては、鶏の鳴きまねをしたのは、番匠即神であつた。あまんしやぐめ[#「あまんしやぐめ」に傍線]が一夜の中に、橋を渡して了うたら、島人を皆取つて殺してもよいと言ふ約束だつたのだとも言うてゐる。
藁人形は、神或はあまんしやぐめ[#「あまんしやぐめ」に傍線]が、最後に、海と山と川(井)とにてんでに行けと言うたので、それ/\があたろ[#「があたろ」に傍線](河太郎)になつた。海に千疋、山に千疋、川に千疋のがあたろ[#「があたろ」に傍線]が居るのは、此為である。又があたろ[#「があたろ」に傍線]の手をひつぱれば抜けるのは、藁人形の手の、さしこんであつたからだ。此河童の手が人に奪はれ易いことゝ、藁人形が河童になつたと言ふ型は、古くもあり、全国的でもある。あいぬ人[#「あいぬ人」に傍線]さへ、藁人形と水精みんつち[#「みん
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