、聖なる資格を得る為の成女戒を享けたらしい日である。田の作物を中心とする時代になつて、村の神女の一番大切な職分は、五月の田植ゑにあるとするに到つた。其で、田植ゑの為の山入りの様な形を採つた。此で今年の早処女となる神女が定まる。男も大方同じ頃から物忌み生活に入る。成年戒を今年授からうとする者共は固より、受戒者もおなじく禁欲生活を長く経なければならぬ。霖雨の候の謹身《ツヽミ》であるから「ながめ忌み」とも「雨《アマ》づゝみ」とも言うた。後には、いつでもふり続く雨天の籠居を言ふやうになつた。
此ながめいみ[#「ながめいみ」に傍線]に入つた標《シルシ》は、宮廷貴族の家長の行うたみづのをひも[#「みづのをひも」に傍線]や、天の羽衣様の物をつける事であつた。後代には、常もとりかく[#「とりかく」に傍点]様になつたが、此は田植ゑのはじまるまでの事で、愈早苗をとり出す様になると、此物忌みのひも[#「ひも」に傍線]は解き去られて、完全に、神としてのふるまひが許される。其までの長雨忌《ナガメイ》みの間を「馬にこそ、ふもだしかくれ」と歌はれた繋《カイ》・絆《ホダシ》(すべて、ふもだし[#「ふもだし」に傍線])
前へ
次へ
全48ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング