であつた。其神女群の中、最高位にゐる一人がえ[#「え」に傍線](兄)で、其余はひつくるめておと[#「おと」に傍線](弟)と言うた。古事記は既に「弟」の時代用語例に囚はれて、矛盾を重ねてゐる。兄に対して大《オホ》ある如く、弟に対して稚《ワカ》を用ゐて、次位の高級神女を示す風から見れば、弟にも多数と次位の一人とを使ひわけたのだ。即神女の、とりわけ神に近づく者を二人と定め、其中で副位のをおと[#「おと」に傍線]と言ふ様になつたのである。
かうした神女が、一群として宮廷に入つたのが、丹波道主貴の家の女であつた。此七処女は、何の為に召されたか。言ふまでもなくみづのをひも[#「みづのをひも」に傍線]を解き奉る為である。だが、紐と言へば、すぐ聯想せられるのは、性的生活である。先達諸家の解説にも、此先入が主となつて、古代生活の大切な一面を見落されて了うた。事は、一続きの事実であつた。「ひも」の神秘をとり扱ふ神女は、条件的に「神の嫁」の資格を持たねばならなかつたのである。みづのをひも[#「みづのをひも」に傍線]を解く事が直に、紐主にまかれる事ではない。一番親しく、神の身に近づく聖職に備るのは、最高の神女
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