九 兄媛弟媛

やをとめ[#「やをとめ」に傍線]を説かぬ記・紀にも、二人以上の多人数を承認してゐる。神女の人数を、七《ナヽ》処女・八《ヤ》処女・九《コヽノ》の処女などゝ勘定してゐる。此は、多数を凡そ示す数詞が変化して行つた為である。其と共に実数の上に固定を来した場合もあつた。まづ七処女が古く、八処女が其に替つて勢力を得た。此は、神あそび[#「神あそび」に傍線]の舞人の数が、支那式の「※[#「にんべん+(八/月)」、第3水準1−14−20]《イツ》」を単位とする風に、最叶ふものと考へられ出したからだ。唯の神女群遊には、七処女を言ひ、遊舞《アソビ》には八処女を多く用ゐる。現に、八処女の出処比沼山にすら、真名井の水を浴びたのは、七処女としてゐる。だから、七《ナヽ》――古くは八処女の八も――が、正確に七の数詞と定まるまでには、不定多数を言ひ、次には、多数詞と序数詞との二用語例を生じ、遂に、常の数詞と定まつた。此間に、伝承の上の矛盾が出来たのである。
神女群の全体或は一部を意味するものとして、七処女の語が用ゐられ、四人でも五人でも、言ふ事が出来たのだ。其論法から、八処女も古くは、実数は自由
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