]の音に、よい語感があるのだ。
「やさし」は、痩の形容詞でなく、客神に対して、心和いだ様をいひ、又自ら来臨を迎へ恥づる両義がある。
つくも髪は、産屋髪で、物忌みの髪形だ。経喪《ツクモ》髪である。俤に見ゆの序で、慣用から来た誤解であらう。かげ(蘿)にかけてゐた。日かげのかづら[#「日かげのかづら」に傍線]をかけるからである。百年に一年足らぬとは、つくも[#「つくも」に傍線]の枕詞ではない。だから当然九十九の意ではない(百は違ふ。つゞ[#「つゞ」に傍線]で十九或は、九十九か)。百年に満ちて亡びるのでなく、常に一年足らず伸びゆく、此槻の屋のつくも[#「つくも」に傍線]草を葺いた新屋の中の、月忌髪の巫女の頭の日蘿ではないが、彼の人、我に焦れてゐるに違ひない。幻に現れたといふのだ。
つくも[#「つくも」に傍線]には、采女・巫女たちの神室の作物《ツクモ》する髪を言うたのか。
熊野と、出雲と。
 常世と、死の島と。
 死人の三山詣り。
 妙室山。
死者蘇生の地。
霊の寄集地。
樒の一本花を持参。女になつた証拠。
 鉛山。
峰の湯・海際の湯。
をち水求めの天子。
王子詣で。馴子舞。
東海道を説くのは、王子巡拝の最初を示すのだ。
其は、王子斎祀の地点定まらぬ、昔を語るのが元だ。三島郡の小栗の社。
車引き。景事全盛時代の色あげ。
熊野参詣道中の歌。
千引き系統の恋人に牽かれる話の種。万屋の門で動かなくなつたのだ。
千引きの巫女姿。
木やり・石挽き・たゝら唄・どうづき唄。
石挽きと、穴太役と。六条・名越と、たゝら[#「たゝら」に傍線]踊りと。
仏体勧進・仏像鋳造・開眼供養。
御手・御胴勧進の仏曳き。
来世を見て来た人の信仰。
来世から生れ替つて来た鳥・獣・人間の因果話。
来世話をする異形の病人。
此に代つて、物語る因果物師。
大和詞。
 浄るり十二段系統。
歌占巫女の語彙。
歌比丘尼の艶書代筆。
藤沢寺。
 大草紙の新しい書き入れ。
念仏を離れて、説経へ。
本地物の古態。
 初段、貴種流離の原因。
最後は人間として、栄える。
まだ、説経化しきらぬ物。
巫女祭文(山伏の手を通らぬ)。
 盲僧の説経。
神事舞ひの宣命。
 厩ぼめ及び示威。
後には、馬おさへを忘れて了ひ、巫女祭文の色濃くなる。
東国の人の物語からはじまつた。其後、熊野や藤沢がついてゐる。
念仏聖・神明巫女・歌比丘尼の熊野代参慫慂。
 当麻(小本拠)藤沢から――熊野(大本拠)へ。
融通念仏・時衆念仏の差。
念仏踊りの屋敷ぼめ・厩ぼめ。
因果物語附著。
藤沢縁起。念仏功徳。
武士発心譚の系統。懺悔物。
 熊谷・教信……。
ひいき多い判官の名称。
悲運の武士と、後に残る女性。比丘尼のざんげ。
 (小栗)      ┌万歳→山伏
1 馬宣命――神事舞ひ┤幸若
           └盲僧
 (照天)
2 巫女祭文――(神明)
   大和当麻縁起。
3 当麻の無量光院開基。
 (念仏聖)
   時衆の妻としての照日(親鸞の妻)。
   妻は巫女。夫は神。
   ↓
   妻は憑尸。夫は審神者。
   ↓
     ┌歌念仏    ┌念仏
   妻は┤浄るり  夫は┤
     └歌説経    └説経
4 熊野参詣。功徳唱導。
5 王子の本縁。
6 藤沢寺縁起。
7 支那小説の飜案(水滸伝)。
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底本:「折口信夫全集 3」中央公論社
   1995(平成7)年4月10日初版発行
底本の親本:「『古代研究』第一部 民俗学篇第二」大岡山書店
   1930(昭和5)年6月20日
初出:「民族 第四巻第三号」
   1929(昭和4)年4月
※底本の題名の下に書かれている「昭和四年四月「民族」第四巻第三号」はファイル末の「初出」欄に移しました
※複数行にかかる中括弧には、けい線素片をあてました。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2007年4月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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