鉢――他の側からも説明を試みねばならぬが――をかづかせられた後天性の異形が、結婚に関聯して壊れる機会が来る。さうして美しい貌を顕すと言ふのも、よく見れば、蛇子型の加工せられたものであつた。
此等の話が、結婚と悪身解脱を一続きにしてゐるのも「蛇子型」のあつたことを見せてゐる。兼ねて此型は、母と成年式と嫁とりの資格とに関聯したものなることを物語る。
小栗判官の本宮入湯は、膚肉の恢復の為と言ふ様に見えるのは、餓鬼身解脱の為の参詣と言ふ形が、合理化せられて、歪んで来たものと見ることが出来る。
江戸期より前の幽霊は、段々餓鬼と近づいて行つて居ることは述べた。さうした幽鬼の中、時を経て甦る者の、魂の寓りは、鳥けものゝ為に荒されて枯骨となつて居る。火で焚かぬ限りは、幾度でも原形に復した巨樹民譚は、もはや印象薄くなつてゐたのである。さうした餓鬼身を空想するだけでも、いぶせい教誨である。異民族――他界の生類――餓鬼と、衣類・肉身を中心にして、異郷観は変化しながら、尚、霊物としての取り扱ひは忘れなかつた。餓鬼身を脱しようとした幽鬼の苦しみは、小栗浄瑠璃には、朧ろに重る二重の陰の様に見え透かされて居る。
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