々では、神なる獣身のなごりが永く記念せられて居た。獣身を捐てゝ後も、尚且、家長の資格を示すものとして、特定の人にしるし[#「しるし」に傍線]の現れることを、おし拡げて、血族通有の特徴なる鱗や、乳房や、八重歯が考へられたのであらう。
もつと残つて居なければならぬ筈で、而も「蛇息子」の話の纔かに、然し、最完全に近く、俤を止めて居る古代生活が、わが国にも実在したのであつた。此考へから、私は蛇子型が我が国の民譚になからうはずはない、と思ふのである。
紫波郡の方では、嫁が蛇身を破ることになつてゐるが、此は、べありんぐるど[#「べありんぐるど」に傍線]氏の型の方が、正しい格を示してゐる。母が、子の姿を易へてやる例は、古事記の春山霞壮夫の御母《ミオヤ》がさうである。常陸風土記の、※[#「日+甫」、第3水準1−85−29]時臥山の話の御子神に瓮を投げて、上天の資格を失はした母も、其にあたる。生みの男の子を、身体の上に加工して村の男にする責任を、母が持つて居た俤らしい者を見せて居るのであらう。此は蛇子型の父方の異形身が、母の手で、此国の姿に替へられる事の説明には役に立つ。竹取物語のかぐや姫[#「かぐや姫
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