ば、甚幻怪なものであらう。武家時代に入つて、行器は久しく首桶に使はれた。東京芝大神宮の行器《ホカヒ》――ちぎ[#「ちぎ」に傍点]・ちげ[#「ちげ」に傍点]又は、ちぎ櫃《ビツ》と言ふ――は、大久保彦左用ゐる所の首桶だと言ふ。而も食物容れだと言ふ事は、其処でも忘られては居ない。其上、今も祭礼・婚葬の儀礼の食物は、之に盛つて贈る風が、関東・東山の国々には行はれて居て、ほかい[#「ほかい」に傍線]・ほけ[#「ほけ」に傍線]など称へてゐる。一方又、梓巫女の携へてゐる筥は、行器とは形は違つてゐるが、此中に犬の首が入れてあるのだなどゝ伝へてゐる。巡游神伶の持ち物の中には、本尊と信ぜられた、ある神体の一部が這入つてゐるものだ、と言ふ外部の固い推測が、長く持ち伝へられるだけの、信仰的根柢があつたには違ひないのである。
祝言の乞食者が持ち廻つた神器が、又謂はゞ一種の神座《カグラ》でもある訣であり、同時に食器であり、更に運搬具でもあつたのだ。之を垂下し、又|枴《アフゴ》で担ひ、或は頭上に戴いても歩いて居た。時としては、之に腰を卸して祝言を陳べる様な事もあつた。武家時代に残存してゐた桂女《カツラメ》などは、「
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