又語らざるに、却て仏教的な説経文学の意義に考へられかけて居る。実は、もうさうなつてもよい、と考へてゐる私である。元、漂遊者の文学、巡游伶人の文学などゝ命けて、考察を続けて来た間に、その頃此国の文学史家が、徐ろにとり入れかけたのが、もうるとん[#「もうるとん」に傍線]氏の文学論及び文学史に関する諸論文であつた。右の先輩の文学に対する態度は、其前から盛んであつた仏蘭西の民俗学的な研究法から、甚しく影響を受けたものであつた。其だけにおなじく、民俗学的態度に拠る事の多い私どもの研究法からは、極めて些細な点までも、差異が見え透いた。あめりか[#「あめりか」に傍線]流に常識化したやりくち[#「やりくち」に傍点]が、如何にも気易げに感ぜられたのであつた。そのもうるとん[#「もうるとん」に傍線]氏を立てる方々の間に、漂流文学と言ふ術語が喜ばれ出した時期があつた。で其混乱を避ける為に、わざと唱導文学の字面を採ることにもしたのであつた。だから、宗教以前から、その以後までを包含してゐる訣なのだ。
殊に民俗文学の発生を説く事に力を入れたい、と言ふ私自身の好みからは、是非とも此点を明らかにしておかうと考へる。さ
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