諸種の文芸を発生する事を述べるのは、此からである。其上、其中心は、何と謂つても、都の流行である。此芸能者の交迭が、色々な文学・芸能を、宗教的に説経的に生んで行く事を、もつと落ちついて咄す筈であつた。だが、其に入る前に制限は、既に遥かにのり越してゐる。是非なくこゝに筆を擱く。だが、日本の唱導文学は、此後何時までも、江戸の末期までも、形こそ変へたれ、主題は一つ。神――及び仏――の流離|転生《テンジヤウ》を説くものゝ、種々な形の変化である。さうして、其が近代ほど貴人となり、又理想的雛男となり易るだけであつた。さうして、江戸期において、ほゞ大きな四つの区分、説経・浄瑠璃・祭文《サイモン》・念仏が目につくが、此が長く続いた叙事詩の末である。其他にも幾多の芸能文学が出没したが、すべて皆奴隷宗教家の口舌の上に転《コロ》がされることによつて維持せられて来た事も、一つの忘るべからざる事実である。
底本:「折口信夫全集 4」中央公論社
1995(平成7)年5月10日初版発行
初出:「日本文学講座 第二巻」改造社
1934(昭和9)年8月
※底本の題名の下に書かれている「昭和九年八月、改造社「日本文学講座」第二巻」はファイル末の「初出」欄に移しました。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2009年9月1日作成
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