。後鳥羽院にも、ある時は左馬頭親定と言ふ変名を使うて居られた位である。
たゞの上達部《カムダチメ》や、伝統の絡んだ重苦しい氏の名などゝは違うて、きさく[#「きさく」に傍点]な、自由な感じのする、ありふれて居ない姓や、位も、官も脱ぎ棄てた様に、通り名や、法名だけで通つて居る隠者などから受けるさば/\した気持は、想像出来なくはない。それとても、趣味と言つた程度のものに過ぎなかつたであらう。王朝末から著しくなつた上流の人々の、低い階級の生活に寄せた驚異の心は、段々深まつてゐた。異郷情趣に似たものに、はずませられて、思ひもかけぬ世相を実験した向きも多く出て来た。一つは、此為でもあらう。
第一番の理由としては、歌合せ・連歌の持つてゐた如何にも新興文学々々した、鮮やかな印象から来てゐる事である。恣《ほしひまま》な朗らかさが、調子に溢れてゐた。伝統の鬱陶しさも、まだなかつた。実は、文学の一様式として認められ出した王朝末にすら、既に新味のない固定したものであつた。其が詩歌合せの流行によつて、初めて文学態度に這入つて来て、ある方面では、生れ更つた様になつた。一番々々|番《ツガ》へられる相手方の詩句は、漢
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