の次に、五十首づゝある。方位に属する物名の歌は、其中十首で、呪文などの形に模した物らしい。此は、四季・恋に対する雑《ザフ》とも言ふべきものである。雑歌が歴史的の意義を持つてゐる事は明らかであつて、謂はゞ、歌物語を簡明に、集成したものであつた。
曾丹集に此条には二個所とも、安積山・浪花津の事を記してゐるのは、多分好忠の新作で、古風を模したものであらう。同時に、口ずさみ[#「口ずさみ」に傍線]歌を手習ひに用ゐた事も知れ、其が歴史教育の積りの物語歌であつた事も訣るのである。さうして歌の功徳を呑みこませたものである。其上此歌は「あさか山」の歌と「浪花津」の歌との一音づゝを句の首尾に据ゑた言語遊戯になつてゐる。
手習帳を双紙と言ふことも、用語の上からの名で、冊子と謂はれた体裁の本が、多く手習ひに用ゐられた為、手習ひに使ふ物は、皆冊子といふ事になつたのだ。折り本の法帖風の物が、習ふ者・教へる者両方に用ゐられたのであつた。口遊《クイウ》・枕冊子はじめ、倭名鈔・字鏡・名義抄の類から経文類まで書写せられる様になつたのである。さうして、事実と文字と、語彙と、社会知識とを習得させるのだ。
其が少年から成人に
前へ 次へ
全76ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング