も、民謡以上に、創作欲が出て来て、前期王朝の宮廷詞人の様に、地下階級の吏民にも、歌人が現れて来た。此人々は固より、殿上以上の歌風を模倣して出たのだが、稍自由な、感覚の新しさや、多少の時代的色彩があつた。かうした地下の歌風が混じて、殿上の歌風は、取材は新しいが、感激の伴はないもの、感激は見せても理智からわり出した機智式の趣向やら、新鋭なものと、鈍重なものとの接触から来る折衷態度が、古今集の歌風を濁らした。
併し其が、地下の武官忠岑や、地下に近い博士の血を享けた貫之等によつて導かれたのは、貴族階級の文学の弱点を示してゐる。一番外来の刺戟を早くとり入れるが、固有の物にさうであつた様に、新来の物に対しても、把持力が薄い。其為に直様、在来の類型に妥協させて、新しい特殊な点を忘れて了ふ。外面と概念とは会得しても、内生活には、没交渉な鵜呑みの模倣をする。階級意識から出る文化主義や、虚飾態度を、儀式制度と同様に文学にもとり入れた。だから、新しい皮嚢《かはぶくろ》に、依然、老酒が満ちて来てゐた。でも、見るから古めかしい物よりも、新しい題材や、技巧は目に付く。かうして、古今集の歌風は、宇多の趣味・醍醐の鋭
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