つた。
旅人の子の家持は、最後の一人の観のある人であつた。古代の歌謡に憧れ、家の昔を懐しんでゐた。さうしてくづれる浪を堰きとめようとして、時勢に押されて敗北した。でも、さすがに彼の歌には、情景の融合と、近代的の感興が行き亘つてゐる。
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朝牀《アサトコ》に聴けば遥けし。射水《イミヅ》川、朝漕ぎしつゝ唄ふ舟人(家持――万葉巻十九)
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赤人のよい物と似た処のあるのは、模倣から上手の域に達した人だけに、意識して影響をとり込んでゐると言うてよからう。
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春の野に霞たなびき、うら悲し。此夕暮に、鶯なくも(家持――万葉巻十九)
我が家《ヤド》のいさゝ群竹《ムラタケ》 吹く風の 音のかそけき、このゆふべかも(同)
うら/\に照れる春日に、雲雀あがり、心かなしも。独りし思へば(同)
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家持は、どつちかと言へば、人麻呂から得た影響の部分が、よい様である。そして素質的に、抒情派から出て、叙景に入つた人である。此点に、最人麻呂と似て居る点が見出される。而も歌は、感興の鋭い、近代的な神経を備へたものである。赤人の末期の「
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