、ほゞ邑落生活の小国の観念が、郡制の下に国家意識に改まりかけて来たし、小国の君主たる国造は、郡領として官吏の列に加へられ、国造が兼ねて持つてゐた教権は政権と取り離され、国家生活の精神の弘通を妨げる邑落時代からの信仰は、宮廷の宗教に統一せられようといふ意図の下に、国造近親の処女は采女として宮廷に徴されて、其信仰儀礼に馴らされた。全体として見れば、新しく目をあいた宮廷生活が、豪華な気分に充ちてゐたのは、道理でもあり、よい事でもあつた。支那模倣も、よい側から見れば、新しい国家意識を叩き覚ます為の、内国へ対しての示威ともなつて居た。
此時勢に、人麻呂は恐らく大和の国の添上《ソフガミ》の柿本に出たことゝ思はれる。彼が宮廷詩人として、宮廷の人々の意志を代表し、皇族の儀式の為の詞曲を委託せられて製作した痕は、此人の作と伝へられる万葉集の多くの歌に現れてゐる。作者自身の感激を叫びあげたにしては、技巧の上に新味は出して居ても、結局類型を脱せないものが多い。吉野の離宮の行幸に従うて詠じた歌や、近江の旧都を過ぎた時の感動を謡うた歌の類の、伝習的に高い値を打たれた物の多くが、大抵は、作者独自の心の動きと見るよ
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