が、どうも一つ事から、容易に、氣分の離れぬと言ふ性分が、もと[#「もと」に傍点]になつてゐる樣である。
さて、今覺えてゐる所では、私の中將姫の事を書き出したのは、「神の嫁」といふ短篇未完のものがはじめである。此は大正十年時分に、ほんの百行足らずの分量を書いたきり、そのまゝになつてゐる。が、横佩垣内の大臣家の姫の失踪事件を書かうとして、尻きれとんぼうになつた。その時の構圖は、凡けろりと忘れたやうなあり樣だが、藕絲曼陀羅には、結びつけようとはしては居なかつたのではないかと思ふ。
その後もどうかすると、之を書きつがうとするのか、出直して見ようと言ふのか、ともかくもいろ/\な發足點を作つて、書きかけたものが、幾つかあつた。さうして、今度のゑぢぷと[#「ゑぢぷと」に傍線]もどきの本が、最後に出て來たのである。別に、書かねばならぬと言ふほどの動機があつたとも、今では考へ浮ばぬが、何でも、少し興が浮びかけて居たといふのが、何とも名状の出來ぬ、こぐらかつたやうな夢をある朝見た。さうしてこれが書いて見たかつたのだ。書いてゐる中に、夢の中の自分の身が、いつか、中將姫の上になつてゐたのであつた。だから私から
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