といふことは、凡考へてゐてよからう。
其に今一つ、既に述べた女の野遊び・山籠りの風である。此は専ら、五月の早処女《サヲトメ》となる者たちの予めする物忌みと、われ人ともに考へて来たものである。だが、初めにも述べた様に、一処に留らず遊歴するやうな形をとることすらあるのを見ると、物忌みだけにするものではなかつたのであらう。一方にかうした日※[#「日/咎」、第3水準1−85−32]《ヒカゲ》を追ふ風の、早く埋没した俤を、ほのか乍ら窺はせてゐるといふものである。
昔から語義不明のまゝ、訣つた様な風ですまされて来た「かげのわづらひ」と謂つた離魂病なども、日※[#「日/咎」、第3水準1−85−32]《ヒカゲ》を追うてあくがれ歩く女の生活の一面の長い観察をして来た社会で言ひ出した語ではないか。其でなくては、此病気は、陰影を亡くするといふ意味でもなく、「わが身は陰となりにけり」の実体を失ふ程痩せると言ふことでもない。だからなぜさう呼び習したか、此意味ならではわからぬことになる。
比叡坂本側の花摘《ハナツミ》の社《ヤシロ》は、色々の伝へのあるところだが、里の女たちがこゝまで登つて花を摘み、序にこの祠にも奉
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