、必在処に帰つて、ひきこもつて精進をする。此村から出る奉公人は、目見えの際、きつと正月三个日藪入りの事を条件として、もち出す事になつてゐた。処が、村へ戻れぬ様な事でもあると、主家にゐて、精進を厳かに保つてゐる。労働者なんかで、遠方へ出稼ぎに行つてるものも、やはり、所謂其もおずしやうじん[#「もおずしやうじん」に傍線]を実行したものだ。でなければ、冥罰によつて、かつたい[#「かつたい」に傍線](癩病)になる、といふ信仰を持つてゐたのである。
もおずしやうじん[#「もおずしやうじん」に傍線]は、三个日は無論厳かに実行するのだが、其数日前から、既に、そろ/\始められるので、年内に煤掃《スソハ》きをすまして、餅を搗くと、すつかり精進に入る。来客があつても、もおずしやうじん[#「もおずしやうじん」に傍線]のなかまうちである村の人は、なるべくは、座敷《オイヘ》にも上げまいとする。縁台を庭に持出して、其に客を居させて、大抵の応待は、其処ですましてしまふ。
三个日の間は、村人以外の者と、一つ火で煮炊きしたものを食はない。それから、此間は、男女のかたらひは絶対に禁ぜられてゐるので、もし犯す事もあつてはと
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