られ、盆だけは変な風習として行はれて来たのだ。
此日可なり古くから、夏の最中《サナカ》にきまつて塩鯖の手土産をさげて、親・親方の家へ挨拶に行つた。背の青い魚の代表の様なあの魚も、さば[#「さば」に傍線]と言ふ名は古い。其時に持つて行く物をさば[#「さば」に傍線]と言うたから、其土産の肴までさば[#「さば」に傍線]と名をとつたとは言はれない。私は、餅も粢《シトギ》も、米団子も、飯を握つた牡丹餅も持つて行つたであらうが、皆此らは初穂で拵へたもので、此風俗のある時代流行の中心になつた地方の人々の間で、すぐ腐る餅類が大きな家ではたまつて、どうにもならないといふので、塩物でも、生腥を喜ぶ処らしく、塩魚を持ちこんだのが、段々風をなすと言ふ風になつても、やはり此時の進上物にさば[#「さば」に傍線]としか言はなかつた。其で「さば[#「さば」に傍線]と言ふのに赤鰯はこれ如何に」などゝ矛盾を感じ出して、塩鯖にきまつたのかと思うてゐる。子分・子方を沢山持つた豪家などでは、塩物屋の様に積み上げられた事であらう。「今年も相変りませず、御ひいきを」と言ふ頼みは後の事で、古くは、今年もあなたの子分です、御家来です、
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