七

下品な語だが「さば」を読むと言ふ。うつかりと此話にも「さば」を読んだところがある。「さば」は産飯《サバ》で、魚の鯖ではない。神棚に上げる盛り飯の頭をはねて、地べたなどへ散したりする。頭だから「あたまをはねる」との同義で、さばはね[#「さばはね」に傍線]を加へて勘定する事である。さば[#「さば」に傍線]といふ語は大分古くからあつたと見え、尊者に上げる食物を通じてさば[#「さば」に傍線]と言ふ様だ。
春の初めと盆前の七日以後、後の藪入りの前型だが、さば[#「さば」に傍線]を読みに出かけた。親に分れて住む者は、親の居る処へ、舅・姑のゐる里へも、殊に親分・親方の家へは子分・子方の者が、何処に住まうが遠からうが、わざ/\挨拶に出かけた。藪入りの丁稚・小女までが親里を訪れるのは、此風なのだ。だから日は替つても、正月・盆の十六日になつてゐる。
閻魔堂・十王堂・地蔵堂などへ参るのは、皆が魂の動き易い日の記念であつたので、魂を預かる人々の前に挨拶に出かけたのだ。此は自分の魂の為であらう。また家へ帰るのは、蕪村が言うた「君見ずや。故人太祇の句。藪入りのねるや一人の親のそば」。さうした哀を新にする為
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