て稀な例として、ヨネ・ノグチがあめりか[#「あめりか」に傍点]英語で詩を書いた様には行かなかつた。それで苦しい中から、最、適当な方法が考へ出されて来た。国語に訳された泰西の詩の飜訳文体を学ぶ事である。相当に日本化した、と言つても直訳手法に沿うた文体は、上田氏の「海潮音」の訳詩の様にはこなれてゐない。其所にある程度まで、西洋象徴詩のおもかげが見られようと言ふものである。象徴派詩人たちの訳詩集などに出て来る文体或は語句、言ひかへれば、国語でありながら、詩の用語なる古典語や、標準語とは違つた印象を与へる詩語と文体が、目に立つて多くなつて来た。それに向けて更に出来るだけ自分の表現を近づけて行くと謂つた方法が考へられて来たのである。これが成功すれば、外国語の文脈にうつして見た第二の国語の流れが現れて来ることになる訣である。だが最初にあげた小林氏の訳詩が見せてゐるやうに、さう言ふ文体になじんだ専門詩人だけには、ある点まではやつと通じる文体とはなつて来たが、其他一切の国語使用者――国民には、たゞ印象の錯雑した不思議な文体としか感じられぬものになつた。この儘に進んで行けば、専門家以外にも承認せられる文
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