重《しょじゅう》の欄干に、自分のよりかかって居るのに気がついた。そうして、しみじみと山に見入って居る。まるで瞳が、吸いこまれるように。山と自分とに繋《つなが》る深い交渉を、又くり返し思い初めていた。
郎女の家は、奈良東城、右京三条第七坊にある。祖父《おおじ》武智麻呂《むちまろ》のここで亡くなって後、父が移り住んでからも、大分の年月になる。父は男壮《おとこざかり》には、横佩《よこはき》の大将《だいしょう》と謂われる程、一ふりの大刀のさげ方にも、工夫を凝らさずには居られぬだて[#「だて」に傍点]者《もの》であった。なみ[#「なみ」に傍点]の人の竪《たて》にさげて佩く大刀を、横えて吊る佩き方を案出した人である。新しい奈良の都の住人は、まだそうした官吏としての、華奢《きゃしゃ》な服装を趣向《この》むまでに到って居なかった頃、姫の若い父は、近代の時世装に思いを凝して居た。その家に覲《たず》ねて来る古い留学生や、新来《いまき》の帰化僧などに尋ねることも、張文成などの新作の物語りの類を、問題にするようなのとも、亦違うていた。
そうした闊達《かったつ》な、やまとごころの、赴くままにふるもうて居る間に、
前へ 次へ
全159ページ中42ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング