で美しい肩。ふくよかなお顔は、鼻|隆《たか》く、眉秀で夢見るようにまみ[#「まみ」に傍点]を伏せて、右手は乳の辺に挙げ、脇の下に垂れた左手は、ふくよかな掌を見せて……ああ雲の上に朱の唇、匂いやかにほほ笑まれると見た……その俤《おもかげ》。
日のみ子さまの御側仕えのお人の中には、あの様な人もおいでになるものだろうか。我が家の父や、兄人《しょうと》たちも、世間の男たちとは、とりわけてお美しい、と女たちは噂するが、其すら似もつかぬ……。
尊い女性《にょしょう》は、下賤な人と、口をきかぬのが当時の世の掟《おきて》である。何よりも、其語は、下ざまには通じぬもの、と考えられていた。それでも、此古物語りをする姥《うば》には、貴族の語もわかるであろう。郎女は、恥じながら問いかけた。
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そこの人。ものを聞こう。此身の語が、聞きとれたら、答えしておくれ。
その飛鳥の宮の日のみ子さまに仕えた、と言うお方は、昔の罪びとらしいに、其が又何とした訣《わけ》で、姫の前に立ち現れては、神々《こうごう》しく見えるであろうぞ。
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此だけの語が言い淀《よど》み、淀みして言われて
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