は、奈良に還つて、公に訴へると言ひ出した。大和[#(ノ)]國にも斷つて、寺の奴ばらを追ひ放つて貰ふとまで、いきまいた。大師《タイシ》を頭《カシラ》に、横佩家に深い筋合ひのある貴族たちの名をあげて、其方々からも、何分の御吟味を願はずには置かぬ、と凄い顏をして、住侶たちを脅かした。
郎女は、貴族の姫で入らせられようが、寺の淨域を穢し、結界まで破られたからは、直にお還りになるやうには計はれぬ。寺の四至の境に在る所で、長期の物忌みして、その贖《アガナ》ひはして貰はねばならぬ、と寺方も、言ひ分はひつこめなかつた。
理分にも非分にも、これまで、南家の權勢でつき通して來た家長老《オトナ》等にも、寺方の扱ひと言ふものゝ、世間どほりにはいかぬ事が訣《ワカ》つて居た。乳母《オモ》に相談かけても、一代さう言ふ世事に與つた事のない此人は、そんな問題には、詮《カヒ》ない唯の女性《ニヨシヤウ》に過ぎなかつた。
先刻《サツキ》からまだ立ち去らずに居た當麻語部の嫗が、口を出した。
[#ここから1字下げ]
其は、寺方が、理分でおざるがや。お隨ひなされねばならぬ。
[#ここで字下げ終わり]
其を聞くと、身狹[#(ノ)]乳
前へ
次へ
全157ページ中99ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング