れよ。鶯よ。あな姦《カマ》や。人に、物思ひをつけくさる。
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荒々しい聲と一しよに、立つて、表戸と直角《カネ》になつた草壁の蔀戸《シトミド》をつきあげたのは、當麻語部《タギマノカタリ》の媼《オムナ》である。北側に當るらしい其外側は、※[#「片+總のつくり」、第3水準1−87−68]を壓するばかり、篠竹が繁つて居た。澤山の葉筋《ハスヂ》が、日をすかして一時にきら/\と、光つて見えた。
郎女は、暫らく幾本とも知れぬその光りの筋の、閃き過ぎた色を、※[#「目+框のつくり」、第3水準1−88−81]《マブタ》の裏に、見つめて居た。をとゝひの日の入り方、山の端に見た輝きが、思はずには居られなかつたからである。
また一時《イツトキ》、廬堂《イホリダウ》を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて、音するものもなかつた。日は段々|闌《タ》けて、小晝《コビル》の温《ヌク》みが、ほの暗い郎女の居處にも、ほつとりと感じられて來た。
寺の奴《ヤツコ》が、三四人先に立つて、僧綱が五六人、其に、大勢の所化たちのとり捲いた一群れが、廬へ來た。
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これが、古《フル》山
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