垣を擇《ト》ることが出來ぬ。
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家持の乘|馬《メ》は再、憂鬱に閉された主人を背に、引き返して、五條まで上つて來た。此邊から、右京の方へ折れこんで、坊角《マチカド》を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りくねりして行く樣子は、此主人に馴れた資人《トネリ》たちにも、胸の測られぬ氣を起させた。二人は、時々顏を見合せ、目くばせをしながら尚、了解が出來ぬ、と言ふやうな表情を交しかはし、馬の後を走つて行く。
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こんなにも、變つて居たのかねえ。
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ある坊角《マチカド》に來た時、馬をぴたと止めて、獨り言のやうに言つた。
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……舊《フル》草に 新《ニヒ》草まじり、生ひば 生ふるかに――だな。
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近頃見つけた歌※[#「にんべん+舞」、第4水準2−3−4]所《カブシヨ》の古記録「東歌《アヅマウタ》」の中に見た一首がふと、此時、彼の言ひたい氣持ちを、代作して居てくれてゐたやうに、思ひ出された。
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さうだ。「おもしろき野《ヌ》をば 勿《ナ》燒きそ」だ。此でよいのだ。
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