で通《コ》ぬものか。
よき耳《ミヽ》を   聞かさぬものか。
青馬の    耳面刀自《ミヽモノトジ》。
[#ここから4字下げ]
刀自もがも。女弟《オト》もがも。
その子の   はらからの子の
處女子の   一人
一人だに、  わが配偶《ツマ》に來《コ》よ。

[#ここから3字下げ]
ひさかたの  天二上《アメフタカミ》
二上の陽面《カゲトモ》に、
生ひをゝり  繁《シ》み咲く
馬醉木《アシビ》の   にほへる子を
[#ここから4字下げ]
我《ア》が     捉《ト》り兼ねて、
[#ここから3字下げ]
馬醉木の   あしずりしつゝ
[#ここから4字下げ]
吾《ア》はもよ偲《シヌ》ぶ。藤原處女
[#ここで字下げ終わり]

歌ひ了へた姥は、大息をついて、ぐつたりした。其から暫らく、山のそよぎ、川瀬の響きばかりが、耳についた。
姥は居ずまひを直して、嚴かな聲音《コワネ》で、誦《カタ》り出した。
[#ここから1字下げ]
とぶとりの 飛鳥の都に、日のみ子樣のおそば近く侍る尊いおん方。さゝなみの大津の宮に人となり、唐土《モロコシ》の學藝《ザエ》に詣《イタ》り深く、詩《カラウタ》も、此國ではじめて作ら
前へ 次へ
全157ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング