下げ]
こう こう こう。
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其時、塚穴の深い奧から、冰りきつた、而も今息を吹き返したばかりの聲が、明らかに和したのである。
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をゝう……。
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九人の心は、ばら/″\の九人の心々であつた。からだも亦ちり/″\に、山田谷へ、竹内谷へ、大阪越えへ、又當麻路へ、峰にちぎれた白い雲のやうに、消えてしまつた。
唯疊まつた山と、谷とに響いて、一つの聲ばかりがする。
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をゝう……。
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三
萬法藏院の北の山陰に、昔から小な庵室があつた。昔からと言ふのは、村人がすべて、さう信じて居たのである。荒廢すれば繕ひ/\して、人は住まぬ廬《イホリ》に、孔雀明王像が据ゑてあつた。當麻《タギマ》の村人の中には、稀に、此が山田寺である、と言ふものもあつた。さう言ふ人の傳へでは、萬法藏院は、山田寺の荒れて後、飛鳥の宮の仰せを受けてとも言ひ、又御自身の御發起《ゴホツキ》からだとも言ふが、一人の尊いみ子が、昔の地を占めにお出でなされて、大伽藍を建てさせられた。其際、山田寺の舊構を殘すため、寺
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