な。畏《コハ》かつたぞよ。此墓のみ魂《タマ》が、河内|安宿部《アスカベ》から石|擔《モ》ちに來て居た男に、憑いた時はなう。
[#ここで字下げ終わり]
九人は、完全に現《ウツ》し世の庶民の心に、なり還つて居た。山の上は、昔語りするには、あまり寂しいことを忘れて居たのである。時の更け過ぎた事が、彼等の心には、現實にひし/\と、感じられ出したのだらう。
[#ここから1字下げ]
もう此でよい。戻らうや。
よかろ よかろ。
[#ここで字下げ終わり]
皆は、鬘をほどき、杖を棄てた白衣の修道者、と言ふだけの姿《ナリ》になつた。
[#ここから1字下げ]
だがの。皆も知つてようが、このお塚は、由緒《ユヰシヨ》深《フカ》い、氣のおける處ゆゑ、まう一度、魂ごひをしておくまいか。
[#ここで字下げ終わり]
長老《トネ》の語と共に、修道者たちは、再|魂呼《タマヨバ》ひの行《ギヤウ》を初めたのである。
[#ここから1字下げ]
こう こう こう。

をゝ……。
[#ここで字下げ終わり]
異樣な聲を出すものだ、と初めは誰も、自分らの中の一人を疑ひ、其でも變に、おぢけづいた心を持ちかけてゐた。も一度、
[#ここから1字
前へ 次へ
全157ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング