の褶を作るのにない[#「ない」に傍点]術《て》を持つた女などが、何でも無いことで、とりわけ重宝がられた。袖の先につける鰭袖《はたそで》を美しく為立てゝ、其に珍しい縫ひとりをする女なども居た。こんなのは、どの家庭にもある話でなく、かう言ふ若人をおきあてた家は、一つのよい見てくれを世間に持つ事になるのだ。一般に染めや裁ち縫ひが、家々の顔見合はぬ女どうしの競技のやうにもてはやされた。摺り染めや叩き染めの技術も、女たちの間には目立たぬ進歩が年々にあつたが、浸《ひ》で染めの為の染料が、韓の技工人《てびと》の影響から、途方もなく変化した。紫と謂つても、茜と謂つても、皆昔の様な染め漿《しほ》の処置《とりあつかひ》はせなくなつた。さうして、染め上げも艶々しくはでなものになつて来た。表向きは、かうした色は許されぬものと次第になつて来たけれど、家の女部屋までは、官《かみ》の目が届くはずもなかつた。
家庭の主婦が手まはりの人を促したてゝ、自身も精励してするやうな為事は、あて人の家では、刀自等の受け持ちであつた。若人たちも、田畠に出ないと言ふばかりで、家の中での為事は、見参《まゐりまみえ》をしないで、田舎に暮
前へ
次へ
全148ページ中124ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング