たの出題で、はじめて私どもの讀み方の、一面からは變であつた事に氣がつきました。家康を狸おやぢときめ、ざつくばらんな秀吉をひいきにする樣には、參りかねる樣になつて居た心境に心づきました。こんな言ひ方をするのも、甚だ人ずきのしないねつとりした人物の標本に、自分で据りこむ樣で氣がひけます。けれども、正直、氣どりなしに、あなたの閻魔帳の黒丸に値する「わかりません」を以て應ずる外はありません。
だが強ひて申さば、自分の生活を低く評價せられまいと言ふ意識を顯し過ぎた作品を殘した作者は、必後くち[#「くち」に傍点]のわるい印象を與へる樣です。
文學上に問題になる生活の價値は、「將來欲」を表現する痛感性の強弱によつてきまるのだと思ひます。概念や主義にも望めず、哲學や標榜などからも出ては參りません。まして、唯紳士としての體面を崩さぬ樣、とり紊さぬ賢者として名聲に溺れて一生を終つた人などは、文學者としては、殊にいたましく感じられます。のみか、生活を態度とすべき文學や哲學を態度とした増上慢の樣な氣がして、いやになります。鴎外博士なども、こんな意味で、いやと言へさうな人です。あの方の作物の上の生活は、皆「將來
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