ある。
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こんどの制限運動も、いつもと大同小異だが、これが漢字制限運動を後ずさりさせる元になるのであつて、片一方字典がある以上、ちよつと気のきいた文字を使つてみようといふ人間が、必ず同訓異字を選択して書き、またできるだけ字面のはなやかな、こむづかしいものを書かうとするてらひ[#「てらひ」に傍点]手も少くないので、堤の一穴からこの蟻がつき崩してしまふ。
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私は決して捨てばちでいふのではない。漢字はこの際全廃する勇気がないくらゐなら人心を動かさぬだけでも、ふところ手をしてゐる方がましだらう。新かなづかひ、制限漢字運動を、かうしたあらゆる不足をこらへて、しりおししようといふのは、こんどのことがうまく行つてくれれば、国民の独立した造語能力が非常にのびてくるだらうと望みをかけることが出来るからである。われわれが自分の胸の中にあること、いひ現はしたいことが、自由に、的確にいひ現はせる日の一日も早く来ることは万人の望むところであり、そのためには、どんな不便もしのばなければならないのである。(談)



底本:「折口信夫全集 12」中央公論社
   199
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