当るのろ[#「のろ」に傍線](祝女)と言ふ、地方の神事官吏なる女性は今も居る。其又下に其地方の家々の神に事へる女の神人が居る。此様子は、内地の昔を髣髴させるではないか。沖縄本島では聞得大君を君主と同格に見た史実がない。が、島々の旧記には其痕跡が残つて居る。

     三 女軍

万葉及び万葉以前の女性とさへ言へば、すぐれて早く恋を知り、口迅《くちど》に秀歌を詠んだものゝ様に考へられて来て居る。併し此とてもやはり、伝説化せられたものに過ぎなかつたのである。佳人才女の事蹟を伝へたのは、其女性自身の作と伝へながら、実は語部の叙事詩其自身が、生み出した性格でもあり、作物でもあつた。つまりは物語や、其から游離した歌謡の上にのみ、情知り訣知りらしく伝はつたので、後世から憧れる程のものでなかつたのである。唯、事の神事に関する限り、著しく女性としての権威を顕し、社会的にも活動したのは事実である。神の意思を宣伝し、神の力を負うて号令する巫女の勢力が、極度に発揮せられるのである。
近江・藤原の宮の頃から禁じられ出したが、尚、其行き亘らなかつた地方には、存して居たらうと思はれるのは、女子の従軍である。昔か
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