窟などに匿れて、夜は姿も見せない。昼は公然と村に来て、嫁入り先の家の水壺を満たす為に、井《カア》の水を頭に載せて搬んだりする。男は友だちを談《カタラ》うて、花嫁のありかをつき止める為に、顔色も青くなるまで尋ね廻る。若し、三日や四日で見つかると、前々から申し合せてあつたものと見て、二人の間がらは、島人全体から疑はれる事になる。勿論爪弾きをするのだ。長く隠れ了せた程、結構な結婚と見なされる。「内間《ウチマ》まか」と言ひ、職名|外間祝女《ホカマノロ》と言はれて居る人などは、今年七十七八であるが、嫁入りの当時に、七十幾日隠れとほしたと言ふが、此が頂上ださうである。夜、聟が嫁を捉へたとなると、髪束をひつゝかんだり、随分手荒な事をして連れ戻る。女も出来るだけの大声をあげて号泣する。其で村中の人が、どこそこの嫁とりも、とう/\落着したと知る事になるのである。
かうした花嫁の心持ちは、微妙なものであらうから、単に形式一遍に泣くとも見られぬが、ともかく神と人間との間にある女としての身の処置は、かうまでせねば解決がつかなかつたのである。此風を、沖縄全体の中、最近まで行うて居たのは、此島だけである。其にも拘
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